今回はファイアパンチのネタバレ記事の後編として、前編(1〜4巻までのネタバレ)の続きをネタバレ解説・考察していきます。
5〜6巻は壮大な物語のフィナーレに向けて、物語が大きく動き出し、意外な結末を迎えます。
この記事では、漫画『ファイアパンチ』のコミックス5〜8巻のネタバレや、解説・考察をまとめました。
最後まで読んでいただくと、壮大すぎて難解な展開が物語にどのような影響を及ぼしていたのかがわかるでしょう。
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『ファイアパンチ』の登場人物を紹介(5〜8巻)
- テナ
- リアン
- ラヌー/イア
- イア(テナの娘)
テナ
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第7巻より
家族をファイアパンチに殺されたことを恨んでいる。
べへムドルグ兵に襲われて子供を妊娠している。
リアン
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第7巻より
テナたちをまとめるリーダー的な存在。
ラヌー/イア
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第7巻より
イアは男性の難民たちに捕まり、命を落とした。
イア(テナの娘)
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第7巻より
亡くなったラヌーの姉妹・イアから名前をとった。テナと同じく炎の祝福者。
『ファイアパンチ』5〜8巻をネタバレ解説
5巻(40話〜49話)
心の断片を読み取れる祝福者・バットマンに、隠したかった『違和感』を見透かされたトガタは、その夜、アグニ教の拠点から立ち去りました。
神からの救いを求める信者たちに、これからどのような演技で皆を導けばいいのか見当もつかないアグニは、深く積もった雪の中をどんどん進んでいくトガタの後を、いつまでも追いかけます。
痺れを切らしたトガタは、アグニに自身がずっと抱いていた違和感を打ち明けました。
「脳みそが男なのに体が女なんだよ!!」
身体と気持ちのすれ違いに気持ち悪さを抱き、わざと『ひょうきんな女』を演じていたトガタ。トガタはアグニが神として崇められているのは、『見た目のせい』だと語ります。
考え方は少年時代のまま身体だけが大きくなったアグニには、『姉』のようなトガタの存在が必要です。
拙い言葉を並べながらトガタを引き止めるアグニに対し、トガタは呆れながら拠点に戻ることを決めました。
ただし、『すごく面白いこと』をトガタの前で行うことが条件で…。
教養なき正義
「ドマに会いに行って復讐を終わらせる」
アグニが起こす『面白いこと』の行方を見守ることにしたトガタは、先日アグニ教への入信を許した元兵士にドマの隠れ家まで案内させました。
ドマを殺しても殺さなくても、自分の正義に納得ができるだけの結果が欲しいアグニ。
ドマが保護している17人の子供たちをアグニ教で保護してドマを殺す、というアグニの答えに、ドマは静かに魚釣りをしながらアグニに問いかけます。
「子供に人肉を食わせる気か」
アグニの教養がない正義は、いずれアグニが死んだ時にアグニの人肉が食べられなくなった信者たちに争いを招き、殺し合ってお互いの人肉を求めるようになるのだと話します。
一方で、アグニが持つ『教養なき正義』を責める気がないドマもかつて、自身が『教養なき正義』でアグニやアグニの村を燃やしたことを告白しました。
洗脳
べへムドルグでは国民に、神が炎の力を使って地獄の悪魔を燃やす映像を見せて洗脳する風習がありました。ドマは、その映像に魅せられて洗脳されていた1人です。
ある日、奴隷を増やしに、とある村へ部下を向かわせたドマは、村で返り討ちに遭ってかろうじて帰還した部下が持ち帰ってきた戦利品を見て驚愕します。
戦利品は、『ファイア べへムドルグ』というパッケージのDVDです。
べへムドルグで放送されていた映像が、実は『映画』と呼ばれる娯楽作品で、ドマは初めて自分が役者の演技を信じて人々を燃やしていたことを知りました。
ドマの話を聞いていたトガタは、自分の映画のコレクションがドマの部下たちの仕業で失われたことが発覚して激怒。ドマに馬乗りになって殴り続けますが、ドマが保護した子供たちやアグニに止められます。
アグニは、ドマが守りたい者たちのために生きている状況を目の当たりにして、復讐を諦めることにしました。
復讐の結末
ドマの元を後にしたアグニは、トガタが求める映画の主人公を演じることや、信者たちのために神様を演じることを受け入れて、『アグニ自身でいること』を押し殺すことにしました。
一方で、ゆっくりと歩くアグニの心の中では、ドマの炎に焼かれて死んだ村人たち、笑顔で過ごしていたルナ、炎の痛みで苦しむ自分の記憶が鮮明に思い出されます。
「ドマは反省している演技をしていただけ」
「兄さん、私のためにファイアパンチになって」
幻想のルナの言葉に、再びドマへの復讐心を刺激されたアグニは、全身の炎を激しく燃やします。
そして、我に帰るとドマを焼き殺し、隠れ家も子供たちも何もかもを焼き払っていたのです。
死ねばよかった
カメラを持って全ての光景をカメラに収めていたトガタは、上手く言葉を発せなくなったアグニにかける言葉がなく、目を合わせることしかできません。トガタの視線こそが、答えです。
アグニはまだ燃えている家の奥でルナの幻想を見て、後ろ姿を追いかけると、凍った湖の上に導かれます。
アグニの身を案じたトガタは、必死にアグニの名前を呼びながら手を差し伸べますが、後悔の念に苛まれるアグニにその声は届かず…。
アグニはそのまま凍った湖の氷を溶かし、自身の死を選びました。
主人公になりたかった
幻想の中の『映画館』で幼いルナと再会したアグニ。ポップコーンを持ってルナの隣の席に座ろうとしますが、トガタが割り込んでルナの隣に座ります。
スクリーンに映し出されているのは、幼い頃のトガタの記憶です。
男性になることに憧れていたトガタは、なぜ自分が男性になりたかったのか『きっかけ』を思い出しました。
「いつか男になって、映画の主人公みたいに誰かを助けたかったんだ…」
湖の中で意識が戻ったアグニは、炎に身体を焼かれながら泳ぐトガタに救われて地上へ。
ふと横を見ると、全身が消えない炎で焼かれて再生を繰り返すトガタの苦しむ姿が目に映ります。
一方、トガタは俯瞰で苦しむ自分の姿を確認しながら、アグニがこれまでに感じてきた痛みに驚きつつ、自分が死んだらアグニも死ぬのだろう…と感じ取りました。
生きていても苦しみが続くだけだと分かっていながら、なぜアグニには生きてほしいと思うのか。トガタはその答えを見つけます。
「アグニ…生きて…」
最期の言葉を『主人公』に伝えたトガタは焼死。
またしても大事な人に「生きて」と言われたアグニは、「何で…」と呟きながら拠点の方角にトガタの遺体を抱き抱えて歩き出します。
木になったユダ
アグニが歩いた先では『巨大な木』が空に向かって高く伸び、木の根が辺り一帯の家や人々を飲み込んで生命を吸い尽くし、アグニ教の信者たちは壊滅。
サンやネネトは偶然、拠点を離れていて木の根の脅威から逃れていました。
巨木を見て立ち尽くすアグニの背後に現れた『氷の魔女』ことスーリャは、アグニに『巨木がユダ』であることを伝えます。
そして、アグニが世界にとって『悪役』であることを告げると、世界の終焉に華を添えるために死ぬよう勧めるのでした。
6巻(50話〜60話)
全ての祝福が使えるようになったユダの力を使って、アグニの消えない炎を無効化し、殺そうと企むスーリャ。
アグニの炎は、ユダの木の枝で全身を貫かれても消えません。
枝を伝って流れ込んでくるユダの思念。
ルナを殺したことやべへムドルグを作り上げたことを並べ立て、「殺してほしい」とアグニに願います。
『ユダを殺す』という新たな生きる糧を与えられたアグニは、巨木に登って木の中に埋まるユダの顔を殴り続けました。
ユダを殺すと、ユダに身体を乗っ取られていたルナが蘇り、笑いかけてくれる…という起こるはずもない奇跡を信じて。
ルナと兄さん
アグニがユダを殴り続けていると、巨木は粉々に砕け散ります。
夜になり、雪が降る湖で意識を取り戻したアグニは、ユダを殴っていた右腕を失い、全身から炎が消え去っていました。
横で眠っているユダを、本能的に殺さなければいけないという衝動に駆られたアグニは、ユダに馬乗りになって左の拳を振り上げますが、涙が止まりません。
一方、目覚めたユダは記憶を失って幼児退行していました。
雪や海を見て無邪気にはしゃぐユダは自分の名前さえも覚えていなくて、アグニに自分の名前は何かと問いかけます。
ユダに『ルナ』、自分を『兄さん』という名前だと教えたアグニ。
心の中で聞こえる『目の前のユダを殺せ』という声に耳を塞ぎ、思考を止めたアグニは夢のような時間をユダ(以下、ルナ)と過ごし、笑顔を浮かべました。
自然な演技
湖の近くで建物を見つけたアグニがルナに服を着せていると、建物を拠点にしている住民たちが帰還し、2人は追い出されます。
彼女たちは食料に飢えている難民で、アグニたちを殺して食べることを提案し始めました。
会話を聞いていたアグニは、彼女たちが『ドマの教え子』だったことを察知。
「自分もドマの教え子」だと嘘をつき、涙を浮かべてドマや子供たちの最期を捏造して真実のように語ります。
彼女たちがアグニの演技に動揺していると、男性ばかりが集う難民たちが建物の食料を奪いにやって来ました。
彼女たちはルナを助ける代わりに、アグニだけその場に残るように伝えると、アグニは男性の難民たちに銃を突きつけられます。
再生の祝福を失った今なら、死ぬことができる…と気付いたアグニ。
男たちを、息をするように自然な演技で油断させて、ある程度の人数の男たちを失神させると、アグニは全身に銃弾を受けながらも男たちの撃退に成功します。
新しい居場所
全身から出血して意識を失ったアグニは、難民の女性たちから必死の介抱を受けます。
これ以上の嘘を重ねず、まともなまま死にたいと願うアグニの心とは裏腹に、ルナの「生きて」という言葉がアグニの感情を激しく揺さぶります。
全身に埋まった銃弾を弾き出し、少しだけ生えたアグニの『右腕』。
アグニの手を握り締めていたルナの意思とともに、消えたはずの再生の祝福が誘発されたのでした。
アグニを最後まで介抱していた女性・リアンは、『顔を見たことがないユダ』を含む再生の祝福者に嫌悪感を示しつつ、アグニたちを拠点に受け入れることを提案します。
アグニはリアンに名前を思い出すまでの間、自分のことを『兄さん』と呼ぶように話しました。
兄さんを演じる理由
リアンはアグニに仲間たちを紹介します。
炎の祝福者・テナや、双子のイアとラヌーを紹介すると、薪にする木を集めるようにアグニとルナを海まで案内しました。
アグニが木を集めている間に、海の中にどんどん入っていくルナ。溺れるルナを助けたアグニは、何もできないルナには自分がいなければダメなのだと、改めて『兄さん』を演じることの意義を実感します。
ルナを守るために
テナやリアンに、持ち帰った鹿の血抜きを教えていたアグニ。そこへ、ドマの隠れ家の様子を確認しに出ていたラヌーが戻ってきます。
何もかもが燃えていた、と話すラヌーは帰ってくる途中で双子のイアが、昨夜の男たちに足を銃で撃たれて囚われたことを報告しました。
彼女たちは残酷な事実に緊張感を覚えながら、イアを助けに行くことはせずにそのまま就寝。アグニはルナの暮らしを脅かす危険を排除するため、ひっそりと男たちの拠点へと単身で乗り込みに行きます。
車の轍が残る雪道を辿りながら、男たちの拠点にたどり着いたアグニは持っていた松明で顔を燃やし、『ファイアパンチ』になって拠点を襲撃しようとしますが、松明の火は消えて傷もすぐに修復。
ファイアパンチの象徴の1つである『右腕』も完全に復活し、アグニは無意識のまま拠点を壊滅させてイアさえも見殺しにしていました。
「ルナを守るために来た」
だから、イアの犠牲は仕方がなかった…と自分に言い聞かせるアグニは、自分の右腕をノコギリで切り落とし、『兄さん』に戻ってイアの遺体を自分たちの拠点に持ち帰ります。
ファイアパンチを殺す
その日の夜、イアの死を悼みながら就寝した彼女たち。アグニも眠りについたルナを見守ってから部屋を離れようとしますが、テナに引き止められます。
テナは、死んだドマが自分の父親だったこと、兄弟たち全員がファイアパンチに殺されたこと、ファイパンチのせいでべへムドルグが崩壊したこと、自分が兵士に襲われて妊娠したことをアグニに告白。
そして、「ファイアパンチを殺してほしい」と切望しました。
冷や汗が流れるアグニは、テナの言葉で目が覚めます。かつて自分がドマを憎んだように、自分も人に恨まれる存在のファイアパンチになっていたのです。
アグニは、『アグニ』でも『主人公』でも『神様』でもなくなった存在の自分を殺すため、テナに誓います。
「ファイアパンチは俺が殺す」と。
7巻(61話〜71話)
テナから「ファイアパンチを殺して」と言われたアグニは、罪悪感にさいなまれて自殺を試みますが、再生の祝福に阻まれて失敗に終わります。
海で自殺をしようとしてもルナに見つかり、『生きて』と言われて自殺を止められ、精神が想像を絶する痛みに襲われるのでした。
アグニの気持ちに相反するように、右腕は日を重ねるごとに生えていきます。一方で、アグニの味覚も感情もなくなり、眠ることさえ難しい身体に。
テナが子供を産んだ頃にはすっかり右腕は再生し終えて、10年の月日が流れていました。
積もる恨み
テナの子供・イアに懐かれているアグニは、日課で木を切りに出かける際に「死なないでね!」と無邪気に見送られます。
しかし、アグニの自殺願望は時が経っても消えることはありません。チェンソーで首を切っても、今日も死ねませんでした。
その日の夜、テナと2人きりになったアグニは、再びテナから「ファイアパンチを殺して」と切望されます。テナの恨みは、年を重ねるごとに強さを増すばかりです。
2人の会話を盗み聞きしていたルナは、アグニと同じベッドでアグニを諭します。
「ファイアパンチを殺しちゃダメ」
「ファイアパンチの炎が兄さんに燃え移って死んだら、私は生きられなくなります」
ルナの気持ちを聞いていたアグニは、ルナに問いかけました。
「もし、俺がファイアパンチだったら、ルナはどうする…?」
ルナは少し考えて、「もう誰も殺さないでって…言う」と答えます。
その言葉は、自分を見失ったアグニの心に響くことはありません。
10年後のアグニ教は…
10年経過した世界で、変化したのはアグニたちの暮らしだけではありませんでした。
アグニと離れ離れになっていたサンは今もなおアグニを慕っていて、狂信的にアグニに心酔し、アグニ教の教祖として信者たちをまとめていたのです。
機械の義足と電気の祝福を駆使して、アグニ教に背いた人に裁きを下すサン。
ジャックやスーリャとともにユダを奪還し、再び『木』を出現させて世界に温暖化をもたらそうと計画していますが、サンはアグニからユダを奪って悲しませることに、ためらいがありました。
一方で、サンの感情に関係なくジャックとスーリャは計画を進めます。
ジャックは、アグニとユダに家族を殺された復讐者たちを集め、アグニの元へ襲撃させることに。
選択の時
ある日、アグニがルナやイアと魚釣りをしていると、ネネトが訪ねてきました。
ネネトは炎に包まれていないアグニの姿に驚きつつ明日の夜、ユダを奪いに兵士たちがやってくることをアグニに告げます。
ユダ以外の人間も殺してほしくなければ、ネネトにユダを引き渡すよう取引を持ちかけられたアグニは、サンの現状も聞かされますが表情は変わりません。
「全人類を助けるのか、妹に似ている奴を助けるのか」
明日の夜までに選んでほしい、といい残してネネトは拠点へと戻っていきました。
崩壊
ネネトが訪ねてきた日の夜、アグニは寝室で待っていたルナに、例え話を聞かせます。
もしも、皆に恐れられる人殺しでルナとは赤の他人のアグニと、アグニ以外の全員が凍え死にそうになっていたら、家の中にいるルナはどちらを助けるか…。
ルナは「兄さんを選ぶ…」と答えてアグニの首に手を回し、キスをしました。
アグニと一緒に過ごしていたルナは、アグニが自分の本当の兄ではないことに気付き、『愛情』を芽生えさせていたのです。
そして、自分とアグニで子供を作り本当の家族になればいい、と誘うのでした。
アグニとルナが肌を重ね終えた頃、ドアの外で部屋の中の様子をうかがっていたテナは、『ある疑念』が確信に変わります。
昼間、ネネトとアグニの会話を聞いていたイアは、『兄さん』の名前が『アグニ』だったことを知り、母のテナに話したのです。
かつてファイアパンチが仲間たちから、『アグニ』と呼ばれていたことを知っていたテナ。
偶然の一致か、『兄さん』がファイアパンチだったのか、アグニに迫ります。
復讐者からの報復
一方、ネネトは昼間のアグニの様子から、ユダを自分たちに渡す気がないことを察し、同日の夜に兵士たちを連れて、拠点を襲撃。昼間のうちに仕掛けておいた爆弾を起爆させ、拠点を激しい炎が包みます。
炎の向こう側から、銃で撃ちながら立ち向かってくる兵士たちの姿を確認したアグニは、応戦しようと歩き出しますが、腕を切られて心臓を一突きされて撃沈。
アグニを鎮めたのは、かつてユダの部下に顔と家族を焼かれた、刃物を操る復讐者(祝福者)でした。
再生の祝福で復活したアグニは、激しい戦いの末に最後は拳を振り上げて復讐者の息の根を止めようとしますが、テナが2人の間に入ってアグニの動きを止めます。
偽りの幸せ
テナはアグニがこれ以上誰かを殺すことによって、ファイアパンチから戻れなくなることを心配していました。
10年間偽りだらけだったとしても、幸せに暮らしてきたテナたち。
アグニが、ネネトたちに連れ去られたルナを追って誰かを殺すよりも、ルナを失って自分たちと暮らしたほうが幸せになれるのだと言い聞かせます。
しかし、アグニにテナの声は届きません。アグニの頭の中では、『本当の妹のルナ』と『ルナになったユダ』との記憶が廻り、アグニが拳を振り上げなければならない『本当の意味』を思い出します。
拳の痛みは、約束を忘れないようにするための儀式。
ルナと交わした約束の全てに、拳を突き合わせて痛みを共有していました。
『ルナと暖かい世界を一緒に見て回る』
その約束を守るためにファイアパンチに戻り、ルナを取り戻すことにしたアグニ。
ニーサン
テナに全ての罪を告白したアグニは、完全に悪役と化したファイアパンチになりきり、テナに拳を振り上げて彼女の頬を殴ります。
母を傷つけられたイアが、炎の祝福でアグニの乱暴を止めると、『懐かしい炎』が身体中に燃え移るのを感じたアグニ。
イアが使った炎は、ドマと同じ『消えない炎』でした。
本来のファイアパンチの姿に戻ったアグニは、テナたちを真っ直ぐ見据えて、その場を後にします。
イアは最後の最後まで『ニーサン』とアグニを慕っていました。
元教祖と現教祖
ネネトにサンの元まで輸送されていたルナは、自分が『兄さん』と会う前はどのような人物だったかをネネトに問います。
罪悪感と、自分が生きていてはいけない存在だったことは何となく感覚で分かっていたルナ。
抵抗せずに、これから起こることを素直に受け止めようとするルナに対し、ネネトは「さすが元教祖様だ」と皮肉を漏らします。
一方、『ユダ』を拠点で待つサンはアグニに祈りを捧げていました。
もうすぐユダを手に入れて、世界の氷河期を終わらせることに上機嫌のジャックとスーリャはアグニを貶し、サンの逆鱗に触れて殺されます。
サンは信者たちに2人の首を見せしめにして、アグニと炎を世界から奪ったユダに復讐の時がきた、と宣言。
アグニ教の教祖・サンがユダに裁きを下し、世界を暖かくする瞬間が迫っていました。
8巻(72話〜83話)
ルナ(以下、ユダ)を乗せた車を追って、立ちはだかる復讐者たちを炎で一掃するアグニ。
「どうかご慈悲を…アグニ様…」と、アグニの姿を前にして跪いて拝む信者でさえも、何者でもなくなってしまったアグニの前では何の意味も成さず、炎に焼かれて塵と化します。
一方、ネネトとユダはアグニ教の拠点に到着しました。ユダが乗った車を囲んだ信者たちは、雪玉を一斉に投げてユダの存在を拒みます。
信者たちの奥から現れたのが、アグニ教の教祖・サンです。
「俺はサン!お前に火を灯す者の名だ!」
サンはユダを『木』にするのではなく、ユダを燃やして殺し、このまま世界を雪で覆い『アグニ様を感じる機会』を得られるようにするのだ、と話しました。
当初の目的とは大きく異なる計画に動揺を隠せないネネトは、歪んだアグニ教に物申します。アグニは神ではなく、再生の祝福と消えない炎によって生まれた『ただの可哀想な人』なのだと。
幼い頃、何度も自分のピンチに駆けつけたアグニを『神』だと信じて疑わないサンは、ネネトの目の前に、電気で燃やした木の枝を差し出します。
「アグニ様がただの可哀想な人間っていうなら、この炎に耐えてみろよ」
救世主か、それとも…
ネネトの危機に、祝福の力を使ったユダはサンが持っていた木の枝に草木を生やしてサンを妨害。
怒ったサンがユダの首に手を掛けていよいよ殺そうとした時、信者たちが跪いて一斉に祈り始めました。サンはユダを放り出し、信者たちが拝む方向に顔を向けます。
そこへ現れたのは、全身が炎に包まれた何者かでした。
サンが『アグニ様』と慕っていた頃の面影は全くなく、アグニは炎に焼かれて悪魔のような顔になっていたのです。
サンはかつての『アグニ様』が、燃えている身体の中に閉じ込められているのだろうと思い至り、アグニを倒して『アグニ様』を取り戻すことを決意します。
雷vs炎
アグニとサンは、炎と電気で激しい戦いを繰り広げて周囲を破壊し尽くしました。
地面に伏して、混乱する記憶の中でアグニに残っていたのは、誰かに対する殺意だけ。
最後まで立っていたサンは『アグニ様』の姿に戻ったアグニに、一瞬興奮して見せます。
しかし、アグニが『まともに戻った演技』をしているのでは…という疑念を抱き、横たわっているアグニに特大の電気をひと撃ち。
『最後の試練』を乗り越えたことを、天にいるであろうアグニに大声で報告しました。
一方、ルナとの思い出が鮮明に蘇るアグニの右の拳には、静かに炎が宿りますが、サンはその様子に気付きません。
「生きたい…」
気力を振り絞って伸ばしたアグニの拳がサンの足に触れて炎が燃え広がり、サンは熱さと痛みで悶絶。
アグニの炎によって、サンは塵と化しました。
リセット
立ち尽くすアグニは、ユダに抱きしめられます。
困惑するアグニに、「復讐者も主人公も、神様もファイアパンチも演じなくていい」と話すユダ。
「今度は貴方がなりたい貴方になって、生きて」
ユダは祝福の力を使い、アグニの頬に触れて炎ごと顔を弾き飛ばすと、2人はそのまま燃え尽きて塵に。
騒動の中で生きていたネネトがサンやユダの姿を探していると、灰の中から起き上がったアグニとユダを見つけました。
〇〇年後
祝福の力を使い、自分が何者だったかを思い出したユダは、ネネトに記憶喪失のアグニを任せると、自身は『木』になりました。
世界の中心に現れた巨木を見て生き残った人々は、これから来るであろう『暖かい世界』を夢見て手を合わせます。巨木の根元には、『ファイアパンチ』だったアグニの抜け殻がありました。
そして80年後…。
土地は豊かになり、アグニは『サン』という名前で生活していました。天寿を全うしたネネトを病院で見届けたアグニは、これから『サン』ではなく『自分がなりたい自分』として生きることに。
一方で死に方を模索していたアグニは、旧世代の兵器を掘り起こしている時に見つかった『再生の祝福者が死ねる薬』を教え子から譲り受けます。
それは、ユダの木の根元にある豊かな土地を狙った戦争が始まり、アグニだけが生きるのは酷だ…という教え子の配慮でした。
最後の別れを交わすと、部下が見つけた『ビデオカメラ』をアグニに渡して去った教え子。
アグニは、ネネトが遺した『映画館』でビデオカメラの映像を流しながら、拳を握り締めていました。その映像は、かつてトガタやネネトがアグニの姿を記録したものだったのです。
それから、数百年後、数千年後、数万年後と時は経ちます。
巨木の枝付近に漂うユダは、地球が壊れてもなお宇宙を漂い、ただ1人『無限』を感じて生きていました。
「誰か助けて…」
ユダが声を振り絞った時、『サン』と名乗る全裸の男性がユダの元へやってきます。ユダは彼に『ルナ』と名乗り、2人は奇跡の出会いを喜びながら泣いて、一緒に眠りました。
場面は変わり、映画館にはたくさんの空席と笑顔で会話を弾ませる少年と少女の姿がありました。
<完>
『ファイアパンチ』5〜8巻のポイント・伏線を考察してみた
重要なポイント・伏線考察は次の通りです。
- 兄妹の写真
- アグニの嘘
- アグニの右腕が再生した理由
- サンの側近は誰か
- 信仰心は『見た目』によるものも大きい?
- アグニの人生
- 『ファイアパンチ』の結末
兄妹の写真
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第6巻より
巨木に埋まるユダの顔を殴り続けていたアグニの頬に、1枚の写真が貼り付きます。
写真はアグニの幻想が生み出したものです。
この幻想は、再びルナの兄になる演技をアグニにさせるための引き金になったのかもしれません。
写真に写っていたのは、幼い頃の姿で微笑むルナと苦笑いを浮かべるアグニ。
上手く笑えなかったアグニは無意識に『嘘』を覚えて、演技することを身に付けていました。
小さな嘘を重ねて生きてきたアグニは、本来の自分を見失ったと同時に、嘘をつけば何者にもなりきれることを実感したのでしょう。
アグニの嘘
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第6巻より
頭を撃たれたことで、自分の名前が思い出せなくなったとリアンに話したアグニ。
たくさんの人を殺した『アグニ』という人格を捨て、『兄さん』という人格を演じるために、名前を忘れたふりをしていた可能性が高いです。
その場しのぎの嘘で、新たに生きる場所を見出したアグニですが、その後は自分のついた嘘や演技が自分の首を絞めていく結果に。
アグニの右腕が再生した理由
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第7巻より
再生の祝福者は、意図的に再生を拒むことで身体の再生を遅らせられます。
アグニは右腕を自分で切断し、そのままテナの願いで自殺を試みましたが、ルナから『生きて』という言葉を受けたことによって、徐々に腕が再生し始めました。
腕が再生する頃には感情を失っていたため、再生を拒むことだけでなく、自分がどのような人物だったのかも思い出せなくなっていたのかもしれません。
サンの側近は誰か
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第7巻より
サンがアグニ教の教祖として振る舞うよう、裏からアドバイスを送っていた側近の男性の正体は、かつてサンを『べへムドルグの薪』として利用したジャックである可能性が高いです。
べへムドルグが消失して以降、作中にはしばらく登場していませんでしたが、不思議な縁で再びサンとネネトに関わるようになったのでしょう。
信仰心は『見た目』によるものも大きい?
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第8巻より
待ち焦がれたアグニとの再会を果たしたサンは、アグニの顔全てが炎で焼かれて以前の面影を失っていることから、嫌悪感をあらわにしました。
かつてトガタが、アグニに対して『見た目』のインパクトで信者が信仰しているのだ、と話していたように、サンは『アグニの顔』も含めて愛していたのかもしれません。
信仰のきっかけは、信仰対象の考え方やバックグラウンドだけでなく、『見た目』が重視されているのだと思い知らされる展開でもあります。
アグニの人生
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第8巻より
ユダが木になって80年後、アグニは『サン』として生きていました。
さらに、『教え子』から『先生』と呼ばれていた描写もあり、アグニは記憶がないまま『ドマ』の人生をなぞっていた可能性があります。教え子が軍人と繋がっていたことから、アグニは体術を教えていたのかもしれません。
ネネトから言われるままに生きてきたのか、自分の意思で生きてきたのかは不明ですが、終始『誰か』になって過ごした時間が長かったことがうかがえます。
『ファイアパンチ』の結末
©︎藤本タツキ『ファイアパンチ』第8巻より
最終話の最終ページで、映画館から出ていこうとする少年と少女の姿が描かれています。
これまでの壮大な展開が、まるで映画だったかのような描写です。
作中、アグニの「人は死んだらどこへ行くんだ?」という問いに、トガタが「映画館」と答えています。
何度か死にかけのアグニが映画館を訪れる描写があったことから、この映画館もおそらく死の世界を表現したものと解釈できます。
そんな死の世界=映画館を笑顔で立ち去る男女2人。
きっと、サン(アグニ)とルナです。
笑顔であることから、2人は満足した死を迎えられたのかもしれません。
また、映画そのものは2人以外に誰も観客がいなかった様子を見ると、『駄作』と呼ばれるような出来の映画(物語=人生)だったのかもしれません。
別の解釈をすると、永遠とも言える途方もなく長い時間を歩んだ2人の人生は、他者からすれば興味に値しない物語…なのかもしれませんね。
私たち読者も彼らの物語を見届けた一人です。
この物語は、あなたの目にどう映ったでしょうか?
このラストシーンに読者の感情や反応が込められているのかは不明ですが、ラストシーンを知った上で作品を読み返した時、きっとキャラ一人一人や物語の印象が変わるはずです。
『ファイアパンチ』は嘘と演技で塗り固められた1人の男の生き様
漫画『ファイアパンチ』のコミックス5〜8巻のネタバレや、解説・考察をまとめました。
物語を通して、終始『映画』や『嘘』、『演技』…といったキーワードが登場し、読者も何が本当で何が嘘なのか考えさせられる展開が多くあります。
内容も複雑でありながら、なぜかクセになってしまうのが藤本タツキ作品の魅力です。
ぜひ今回の記事の考察を参考にして、みなさんも考察を楽しんでみてはいかがでしょうか。