チェンソーマンの藤本タツキ先生が描く短編集『22-26』を解説!

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鬼才や麒麟児として評価されている漫画家・藤本タツキ先生。

独特な世界観のストーリーを描き、魅了される人が続出しています。

この記事では、漫画『藤本タツキ短編集22-26』に収録されている短編漫画4作品のネタバレや解説・考察をまとめました

記事を最後までご覧いただくと、藤本タツキ先生が描く代表作のルーツが分かるはず。

長編作品『チェンソーマン』や読み切り作品『ルックバック』を読んで、藤本先生の他の作品にも興味が湧いた方は、ぜひチェックしてみてください。

漫画『藤本タツキ短編集22-26
引用:Amazon

漫画『藤本タツキ短編集22-26』とは、『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』を描いている鬼才・藤本タツキ先生の初期作品が収録された短編集です。

同作には前編があり、『藤本タツキ短編集17-21』という短編集も発表されています。

前編のあとがきで、大学生になったばかりの頃に東日本大震災を経験して、自分の無力さを痛感し、漫画を描くしかなかった…という胸中を明かした藤本タツキ先生。

後編では、無力感に対する気持ちの整理がつき、どのような作風に変化したのかが見どころの1つです

『藤本タツキ短編集22-26』には、次の4作品が収録されています。

  1. 人魚ラプソディ
  2. 目が覚めたら女の子になっていた病
  3. 予言のナユタ
  4. 妹の姉

順番にネタバレ・解説していきます。

目次

①『人魚ラプソディ』のネタバレ・解説

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/人魚ラプソディ』より

まずは、『人魚ラプソディ』をご紹介します。

主な登場人物を紹介

漫画『藤本タツキ短編集22-26』の収録作品1つ目『人魚ラプソディ』に登場する主な人物をご紹介します。

  • トシヒデ
  • シジュ
  • トシヒデの父
  • 人魚の村長

トシヒデ

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/人魚ラプソディ』より

美しい顔立ちの男子中学生。

亡くなった母は人魚で、幼い頃の記憶がほとんどない

学校をサボって、海に沈んだピアノを弾くのが日課になっている。

シジュ

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/人魚ラプソディ』より

美少女姿の人魚。年齢は不詳。

トシヒデが弾いているピアノの音色が好きで、いつも陰から様子を見ていた。

溺れたトシヒデを助けたことがきっかけで交流が始まった

トシヒデの父

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/人魚ラプソディ』より

人魚の妻を亡くし、意気消沈した日々を送っている。

妻が生きていた頃は賑やかな性格だった。

トシヒデに無関心で会話が少ない

人魚の村長

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/人魚ラプソディ』より

シジュが暮らす人魚の村の村長。

人間は嫌いだが、人魚たちには人間を進んで食べないよう注意している

人魚と人間は共存できる生き物ではないと考えている。

『人魚ラプソディ』のネタバレ紹介

とある漁村で暮らしている少年・トシヒデは幼い頃に母を亡くし、生きがいをなくし抜け殻のようになった父と2人で暮らしていました。

たまに学校をサボって海に向かうトシヒデには、1つの楽しみがあります。

それは、海の底に沈んだピアノを、自分の息が切れるまで奏でることです

村には『人喰い人魚』がいるという噂があり、村人たちからは恐れられていましたが、トシヒデは人魚に会ってみたいと思っていました。

実は、母が人魚だったと聞かされていたトシヒデ。その血縁のせいなのか、長く海中に潜っていられます。

今日も海の中でピアノを弾いていると偶然、物陰に人魚の姿を発見。驚きで思わず息を吐き、溺れたトシヒデは人魚に助けられて岸へ上げられるのでした。

君になら食べられてもいい

人魚に助けられたトシヒデは、少し辛辣な言動の人魚に戸惑いながら、彼女がいつもトシヒデの奏でるピアノの音色を聞いていたことを知ります。

そこで、トシヒデは助けてくれたお礼に人魚にピアノを教えることを提案しました。

人間を食べる人魚を恐れないトシヒデの様子を見て、不思議に感じる人魚は「恐くないのか?」と問いかけます。

「恐い!でもキミはとても綺麗だから、キミになら食べられてもいいと思った

恥ずかしげもなく真っ直ぐに答えたトシヒデに少し照れた人魚は、自身の名前を『シジュ』と名乗ると、本当はピアノを弾けるようになりたかったのだと、話しました。

温かい気持ち

シジュと出会った日から、毎日学校を休むようになったトシヒデ。半年経つ頃にはシジュのピアノの腕はすっかり上達し、上手に弾けると2人で喜びを分かち合う関係に。

ある日、トシヒデは美しいシジュの表情に見惚れながら、彼女を恐れる気持ちが薄まり、胸が温かくなっている感覚の正体を知りたくて、シジュに問いかけます。

「今は恐くない。シジュを見ていると…すごく胸が温かい気持ちだ…!これはなんだろう」

トシヒデの疑問に答えることなく、シジュは照れて海に潜り姿を隠しました。

しかし、すぐにまた海面から姿を現したシジュは、トシヒデを見て青ざめた顔をします

「トシヒデ!今すぐ岸に上がれ!!早く!!」

戸惑うトシヒデのすぐそばまで、サメが迫っていたのです。

人間と人魚の因縁

トシヒデは岸に上がるのが間に合わず、大怪我を負います。サメに足や腕を噛まれ、食いちぎられた左耳は『シジュ』により負わされた傷でした。

当時、サメに噛まれたトシヒデは流血。シジュは血の匂いにあてられて自我を忘れると、トシヒデを攻撃しました。

運よく村人の漁船が通り助けられたトシヒデでしたが、本性を表したシジュの表情が忘れられず、『温かい気持ち』は『恐怖』へと変わり、海と距離を置いて過ごすように。

一方、海では『人魚の村長(以下、村長)』が沖に姿を現し、人魚が人間を食べることに対する正当性を村の漁師たちに訴えます。

実は、数年前まで人間は『人魚を食べれば不老不死になる』という噂を信じ、人魚を食べていました。

人魚に食べられたくなかったら、海に近付かず山の幸を食べればいい、と話す村長。過去に子供を人魚に食べられた村人は、村長の言い分に激怒します。

2人の主張は平行線をたどり、譲り合う気は一切ありませんでした。

シジュの後悔

トシヒデに怪我を負わせて気が沈んでいたシジュは村長から、もう二度と沖に近付かないよう警告されます。

トシヒデを食べるつもりはなかったことを否定しようとするシジュに、村長は厳しく、人間と人魚の関係を説明しました。

「人と人魚は分かり合えません。あなたの本能が人間を襲ったのでしょう?それが答えです」

何も言い返せなかったシジュ。

しかし、それでもトシヒデに会って謝りたいという思いはなくならず、シジュは村長の静止を振り切って、一直線に沖へ向かいます

村長を含めた仲間の人魚たちはシジュを止めるため、一斉に後を追うのでした。

同じ道を行く父と子

自宅で晩ご飯ができるのを待っていたトシヒデは、父から人魚だった母との馴れ初めを聞きます。

父もトシヒデと同じように、血の匂いで母に襲われたことがあったと明かしました。恐怖を感じていながら、2人が結婚に至ったのは父が母の美しい笑顔に惚れ込んでいたからだと、穏やかに話す父。

「父さんはね…こんな綺麗に笑う人になら、喰われてもいいと思うくらいには好きだったんだよ」

トシヒデにも心当たりがありました。美しい笑顔を浮かべるシジュを見て、心が温かくなった経験があるトシヒデは、恋心を自覚して思わず立ち上がります。

「トシヒデ。海に行くのはいいが…晩御飯までには帰ってきなさい」

父の言葉に力強く頷いたトシヒデは走って海へ行き、シジュに会うために海の中でピアノを弾くのでした。

感動は種別を超えて

トシヒデとシジュの再会を阻止しようと、シジュを追ってきた人魚たちはみな、トシヒデが奏でるピアノの音色に感動していました。

シジュは気が付きます。何かを美しいと思う気持ちは、人間も人魚も関係ないのだと。

一方、トシヒデはピアノを弾きながら、母と過ごした思い出がよみがえります。ピアノの弾き方や海の泳ぎ方を教えてくれたのは、やはり人魚姿の母だったのです。

そろそろ息が切れてしまう、というとき村長がトシヒデの元へ急いで泳ぎ、口移しをして体内に空気を送り込みました。

その行為は、もっとピアノを聞いていたいという村長の意思表示によるものです。

結局、人魚たちにリクエストされるまま朝までピアノを弾き続けたトシヒデは、家に帰ると父に叱られます。

しかし、トシヒデに無関心な父はそこにはもう居なくて、トシヒデも満更ではありませんでした。

人魚の村へ

トシヒデは父に心配をかけないように、学校へ通うことにしました。

沖から上半身を出したシジュは、トシヒデに付き添いながら噛みちぎった耳を心配しつつ、今度は人魚の村まで遊びに来るようトシヒデを誘います。

今日はサボらずに学校へ行く、というトシヒデに、シジュは大きく手を挙げて彼を見送りました。

「じゃあ行って来い!トシヒデ!!」

「いってらっしゃ〜い!トシヒデ!!」

トシヒデを見送るのは、シジュだけでなく大勢の仲間の人魚たちも同じです

そして場面は変わり、人魚の村で人魚たちに囲まれながらピアノを教えるトシヒデ。

まだ少し人魚に恐怖心を持っていますが、母やシジュの笑顔を思い出すと、自分を受け入れてくれた人魚たちを好きになれるような気がするのでした。

『人魚ラプソディ』の考察・解説

『食べる・食べられる』という生き物の関係性を、漫画で表現することが多い藤本タツキ先生。『人魚ラプソディ』も例外ではありませんでした。

『人魚を食べると不老不死になる』という伝説をモチーフに、人魚という生き物の恐怖や理想が詰まった作品といえます。

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/人魚ラプソディ』より

女性キャラクターが多く登場し、全員が美少女という点はまさに藤本タツキ先生の好みが反映されているのではないでしょうか。

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/人魚ラプソディ』より

また、何かに感動する心は、どのような生き物にも共通している…という描写は、争いが多い人々にこそ刺さるメッセージなのかもしれません。

②『目が覚めたら女の子になっていた病』のネタバレ・解説

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/目が覚めたら女の子になっていた病』より

続いては、『目が覚めたら女の子になっていた病』をご紹介します。

主な登場人物を紹介

漫画『藤本タツキ短編集22-26』の収録作品2つ目『目が覚めたら女の子になっていた病』に登場する主な人物をご紹介します。

  • トシヒデ
  • リエ
  • アキラ

トシヒデ

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/目が覚めたら女の子になっていた病』より

ある日、目が覚めたら身体が女性になっていた元・男子学生。

珍しい病にかかり治療法はなく、病名は『目が覚めたら女の子になっていた病』

幼なじみのリエと付き合っている。

幼い頃から泣き虫で同級生からいじめられやすく、女性になった後は美少女の容姿のせいで、女子生徒からも疎まれるような存在になった。

リエ

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/目が覚めたら女の子になっていた病』より

トシヒデの幼なじみで彼女。

気が強く、泣き虫なトシヒデを守る強かさがある

兄のアキラいわく、おバカ。

アキラ

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/目が覚めたら女の子になっていた病』より

リエの兄。トシヒデやリエと同じ学校に通っている先輩。

リエとトシヒデの交際を応援している

『目が覚めたら女の子になっていた病』のネタバレ紹介

ある日、目が覚めたトシヒデは鏡で自分の姿を見て、性転換していることに驚き病院へ。

泣きながら医師の話を聞くトシヒデに告げられた病名は、世にも珍しい病『目が覚めたら女の子になっていた病』でした。しかも、治療法がない不治の病です。

性転換手術を受けても女性に戻ってしまう…という八方塞がりの状況に、病院を後にしたトシヒデは、泣きながら交際相手のリエに謝るのでした。

リエはトシヒデを慰めながら呟きます。

「トシヒデすぐ泣くからさ…女みたいだって馬鹿にしてたのにな…。ホントに女の子になっちゃったな」

変化した学校生活

翌日、学校でトシヒデは先生の口からクラスメイトに、病気の説明をしてもらいました。加えて、「今日から女子として扱うように」と先生が言い放ち、トシヒデもクラスメイトも動揺します。

これまで男性として生きてきたトシヒデは、体育の着替えも女子とするように言われて、クラスメイトたちが黙っているはずがありません。

休み時間に入ると、男子たちがトシヒデを囲み、好き放題に悪ノリしていじめます。身体の関係を迫ってくる男子たちに、声を上げられないでいるトシヒデ。

一方、女子たちは大人しいトシヒデの様子を見て、「ぶりっ子しててウザい」「オカマ野郎」などと陰湿な陰口を叩きます。

泣き出したトシヒデを救いに来たのは、リエの兄・アキラです。勢いよく教室のドアを開けたアキラは、トシヒデを迎えに来ました。

「トシヒデ、家帰るぞ」

アキラの登場は、今のトシヒデにとってヒーローといっても過言ではありません。

家に連れ帰ってトシヒデを襲うのか、と面白半分でからかってきた生徒に、正義の鉄槌を拳でお見舞いしたアキラは、トシヒデを連れて帰宅するのでした。

心まで女の子になっちゃった?

学校から帰ってきたリエはソファに座り、隣で泣いているトシヒデを慰めます。一方、アキラは生徒に暴力を振るったことで、学校へ呼び出されていました。

トシヒデは泣きながら、リエと結んだ『恋人協定』の第一条『2人の間で隠し事はしない・隠し事をした場合は死刑』の掟に従い、素直な気持ちをリエに懺悔します。

アキラに助けられたとき、女性としてアキラのことを格好いいと感じたことを…

「僕…心まで女の子になっちゃったのかも…」

真剣に気持ちを打ち明けるトシヒデに対し、リエは何とか言葉を絞り出そうとしますが、複雑な心境で返す言葉が見つかりません。

そして、ソファから立ち上がると、心まで女性に近付いたと話すトシヒデの『本当の性別』を確かめるため、トシヒデが着ているジャージを脱がしにかかります。

「服ッ!!脱げ!!」

服を脱がしたトシヒデと身体を重ねようと試みるリエ。暴れるリエの動きを止めたのは、事実であり残酷なトシヒデの一言でした。

身体は正直

男性にあるはずの『性器』がないから、リエと身体を重ねられない…。思わず動きを止めたリエは、泣き出します。

「それでも脱げよぉ…」

リエの泣く姿に衝撃を受けたトシヒデは、観念して脱ぐことを決意。ジャージのズボンに手をかけたところで、アキラが学校から帰宅しました。

ズボンを脱ぎかけていたトシヒデの姿を見て、鼻血を吹き出したアキラは2人がこれから何を行おうとしていたのかを察し、血を流しながらその場を後にしようとします。

しかし、リエが全力でアキラの外出を阻止。

「お兄ちゃんがトシヒデと付き合えよ!」

リエの言葉に呆れたアキラが振り返ろうとしたとき、思い切り拳を振り抜いたリエはアキラにパンチを食らわせて家から飛び出して行きました。

自分は男だ

リエを引き止められず立ちすくむトシヒデをアキラは後押しします。

「トシヒデ、おまえは男か?それとも女か?女ならそこで泣いていろ。男なら今すぐリエを追え」

「男です」

頬を涙で濡らしながら、真っ直ぐと自分の性別を答えたトシヒデ。

リエの後を追いながら小学生の頃に、いじめっ子たちを追い払って手を差し伸べてくれたリエを思い出し、今度は自らリエに手を伸ばして掴みます。

そして、リエの腰を引き寄せてキスをすると、改めて自分の性別が男であることや、リエへの思いをさらけ出すのでした。

男の子みたいになる決意

涙を拭ったリエはトシヒデの頬を両手で包みながら、いつものようにトシヒデの泣き虫な様子を「女みたい」と言うと、「ごめん…」と謝るトシヒデ。

「でも、かっこいい…惚れ直した」

その一言に安心感と嬉しさが込み上げたトシヒデは大号泣。呆れるリエはトシヒデと手をつないで家に帰ります。

『女の子みたい』になったトシヒデは、これから『男の子みたい』になれるよう努力することを心の中で誓うのでした。

『目が覚めたら女の子になっていた病』の考察

周囲が言い続けることで、その言葉通りの結果を招いた様子が描かれている本作は、『言霊の怖さ』を思い知らせるような内容でした。

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/目が覚めたら女の子になっていた病』より

本作の場合は、リエや同級生たちがトシヒデに「女の子みたい」と言い続けた結果、本当に女性になるというケースです。内容はコミカルに描かれていますが、実際に起こったら恐怖ですよね。

自分の言動は誰かの人生に影響を与える可能性がある…という、発言に対する責任感の重さを再認識させられます。

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/目が覚めたら女の子になっていた病』より

また、アキラの問いかけに対し「男です」と言い切ったトシヒデは、これからの人生を左右する大きな決断をしました。

『なりたい自分』を見つけて変わろうとする人の姿が、気高く美しいものであるということがトシヒデから学べます。

③『予言のナユタ』のネタバレ・解説

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/予言のナユタ』より

続いては、『予言のナユタ』をご紹介します。

主な登場人物を紹介

漫画『藤本タツキ短編集22-26』の収録作品3つ目『予言のナユタ』に登場する主な人物をご紹介します。

  • ケンジ
  • ナユタ

ケンジ

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/予言のナユタ』より

ナユタの兄。貧しい家計を支えるため、仕事をしながら近隣住民の手伝いをして暮らしている。

たくさん食べるナユタに、食事の時間はいつも自分のおかずを分け与えている

ナユタ

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/予言のナユタ』より

世界中の魔法使いから『悪魔の子』と予言された、2本の角がある少女。

基本的に、物騒な意味の単語だけで話す

予言を信じている人々からは、排除するべき存在だと考えられている。

『予言のナユタ』のネタバレ紹介

少女・ナユタは、10年前に世界中の魔女から『世界を滅ぼす悪魔の子』と予言されて生まれた、2本の角を持つ『予言の子』です

いずれ世界を滅ぼす魔法使いになる…と言われたナユタを排除しようと、政府に働きかけるよう抗議活動を行う国民たちが大勢いる中で、家族だけはナユタを守ろうと必死でした。

ナユタの兄・ケンジは、母が命を落としてまで産んだ妹を守ることを父と誓いますが、その直後に予言を信じている者の手によって父は殺されます。

それから10年経った現在、ケンジはナユタと生きるために学校には通わず、仕事漬けの日々を送っていました。

しかし、『予言の子の兄』という噂が流れると仕事はクビに。

相変わらず外では、「予言の子を死刑にしろ」と叫ぶ国民たちが抗議活動を行っていて、ケンジはナユタの存在が本当に世界を滅亡させるのか、疑問に感じていました。

恐怖心はあれど愛しい妹

生き物を残虐に殺して遊んでいるかと思えば、机に張り付いて本を読みあさっていることもあるナユタ。まるで何を考えているのかが分からないナユタに対し、ケンジは少し恐怖心を覚えていました。

帰宅したケンジは、複数の剣と鳥の死骸に囲まれて座っていたナユタの姿に驚きます。

強力な魔法を操って剣を出現させたナユタは、転がっていた鳥の死体をケンジに投げつけると、その場から剣とともに姿を消し、空腹を訴えるように両手に箸を持って食卓の前へ。

「破壊最悪墓地…!」

何となくナユタの意図を察したケンジは食事を用意し、大食いのナユタに自分のおかずを分けます

「煉獄虐殺拷問!」

ナユタが話している言葉の意味は分からなくても、もしかしたらこちらの意図は伝わっているのでは…と感じたケンジ。

ケンジがナユタに右手を挙げるように言うと、左手を挙げて見せたり、「『ア・イ・ス食べたい〜』って言ってみろ」と言うと、「血・飛・沫切断眼球ゥ〜」とリズムを真似て単語を言ったりするのでした。

動物の大量殺戮

その日の夜、ナユタを寝かしつけたケンジが眠りにつくと、ナユタは布団から抜け出して、近所の牧場で暮らす牛を『魔法の剣』で大量に惨殺します。

翌日、目を覚ましたケンジが布団から姿を消したナユタを探しに外へ出ると、家の前には牛の死骸がバラバラに刻まれて転がり、ナユタは死骸の中心に立っていました。

何を考えているのか分からないナユタにケンジは絶句。

家畜を殺された近隣住民たちが家に押しかけ、ケンジはひたすら頭を下げて謝るしかありません。

「ケンジがやったんじゃネってのはわかってる!ナユタの魔法だろ?ナユタを警察に引き渡せ!」

ケンジはナユタを守るため、「俺がやりました」と嘘をついてナユタをかばいます

見え透いた嘘をついてまで、妹を守ろうとするケンジに根負けした住民たち。一連の事件の『けじめ』は、ナユタではなくケンジに付けさせることで手打ちにしました。

傷だらけの兄

その日の夜、「朝までには帰ってくる」と言い残して外出し、住民たちについて行ったケンジ。

ナユタは家で読み書きをしながら、ケンジが自分に伝えようとした言葉の数々を思い返します。

かつて、ケンジはナユタに本心を明かしたことがありました

「俺はな酷い話…ナユタが誰に迷惑をかけたっていいと思っているんだ。ナユタが元気なら俺はある程度どうでもいい。ナユタが死ぬのだけは絶対に駄目だ。たった2人の家族なんだからな」

ケンジの家族愛を感じたのか、ナユタは今日の出来事を謝るために、何度も練習して書き直したカタカナで『ゴメンナサイ』と紙に書き、ケンジの帰りを待ちます。

しばらくして家に帰ってきたケンジは顔を腫らして、傷だらけの姿でした。そのまま倒れ込むように眠ったケンジの姿を見て、兄を痛めつけた大人たちに怒りが込み上げるナユタ。

翌日、ナユタは1人で街中に姿を現します。

妹の気遣い

身体の痛みで目を覚ましたケンジは、机の上に切り落とされた豚の頭とメモを見つけます。

『タクサンタベテ ゴメンナサイ』

加えて、昨夜ナユタに食べるよう伝えていたサンドイッチも、手を付けずに置いたままです。ナユタがいつも動物を殺して家に持って帰ってくる理由が、ようやく判明しました

自分に譲ってばかりであまり食べない兄を気遣い、肉を食べさせようとしていたのです。

動物の死骸を兄に贈る斬新な発想にナユタらしさを感じたケンジ。

ナユタが家にいないことに気が付き外へ飛び出すと、ナユタが使った魔法で大量の剣が空を泳ぎ、市民が空を見上げてざわついていました。

初めて叱った兄と叱られた妹

一方、ナユタは自分に向かって攻撃してくる戦車を剣で貫き、何かを必死に訴えかけます。

「拷問斬首!!奈落ッ!破裂!!惨死ッ酷死飢餓!!」

ナユタの魔法に恐れをなした自衛隊員たちは一目散に退避。自衛隊員たちが走り去った方向からケンジが姿を現し、ナユタに近付きます。

大量の剣はまだ空に浮いたままで、これからどうなるのか行末を見守る民衆たち。

剣で銃弾を防いでいたナユタはケンジの姿を見て守りを解除すると、ケンジをじっと見つめます。

腕を振り上げたケンジはナユタの頭をパシッと叩き、ナユタを叱りました

「ナユタっ人が死んだらどうすんだ!!今すぐ!!やめなさい!!」

「うえええっ…」

初めて叱られたナユタは激しく泣きじゃくり、ケンジの胸へ飛び込みます。ケンジは、ナユタが『少し人と違うだけの妹』だったことを今回の件で思い知るのでした。

優しい兄とかわいい妹

泣き止まないナユタをおんぶしたケンジは、ナユタを恐れる人々に宣言します。

「これからはっ、世界を滅亡させないようにっ!ちゃんと躾けますっ!兄としてっ!!」

10年間ともに過ごしてきたナユタを初めて理解することができたケンジは、もうナユタが人々を怖がらせるようなことはしないことを約束しました。

そして一週間後…。

人があまり住んでいない海沿いの地域で、新たな生活を始めることにした2人。

ナユタは人とコミュニケーションが取れるように文字を覚え、感情を伝えられるようになっていました。

「ワタシ コワクナイ?」

スケッチブックに書いた文字で問いかけてくるナユタに対し、ケンジは答えます。

「こわくないよ。俺の可愛い妹だからな」

「爆殺!」

ナユタが口にした『爆殺』が何を伝えたかったのか、本人にしか分かりませんが、感謝を伝える言葉だったのかもしれません。

『予言のナユタ』の考察・解説

藤本タツキ先生の作品『チェンソーマン』を読んだことがある方なら、「もしかして…」と感じたのではないでしょうか。本作に登場するナユタと、『チェンソーマン』に登場しているナユタは見た目がとてもそっくりです

©︎藤本タツキ『チェンソーマン』第11巻より

本作のナユタは『悪魔の子』と人々に恐れられているのに対し、『チェンソーマン』のナユタは素性が悪魔なので、共通点が多くあります

藤本タツキ先生が、本作のあとがきで「ナユタを気に入っている」という趣旨のコメントをしていることから、ルーツはこちらのナユタなのかもしれません。

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/予言のナユタ』より

また、本作のナユタが恐ろしい単語で話している理由には、次のようなことが考えられそうです。

悪魔が住んでいるような場所でしか通じない言語を人間界で話したら、『拷問斬首…』などというように変換される…のかもしれません。

一方で、『チェンソーマン』のナユタは、作中でほとんど喋っていない謎が多い少女なので、登場する回数が増えれば『ナユタという存在』に、新たな解釈が生まれることが予想されます。

④『妹の姉』のネタバレ・解説

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/妹の姉』より

続いては、『妹の姉』をご紹介します。

主な登場人物を紹介

漫画『藤本タツキ短編集22-26』の収録作品4つ目『妹の姉』に登場する主な人物をご紹介します。

  • 光子(みつこ)

光子(みつこ)

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/妹の姉』より

美術高校に通う3年生。本名は江原光子。

学校の玄関に自身の裸体を描いた作品が飾られ、周囲にイジられるようになる

高校卒業後は進学せずに就職することが決まっている。

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/妹の姉』より

光子の妹。本名は杏子。姉と同じ高校に通っている1年生。

作中では『妹』と呼ばれ、名前で呼ばれることはない。

光子の裸体を描いた張本人

『妹の姉』のネタバレ紹介

ある日、美術高校に通う3年生の光子は、登校すると学校の玄関に自分の裸体が描かれた絵が飾られていて驚きました。

学校主催のコンクールで金賞を獲得し、1年間玄関に飾られることが決まったからです。

インパクトがある絵を見た生徒からは『裸の人』と認識されるようになり、光子は一刻も早く絵を玄関から撤去するよう美術の先生に訴えます。

しかし、学校の伝統を壊すわけにもいかず、先生は光子の話に取り合ってくれません。「文句があるなら作者に言え」という先生。

光子の裸体を描いたのは、光子ではなく妹・杏子でした

絵のモデルになった覚えがなければ、妹と仲がよくない光子は、文句を言うこともできず八方塞がりです。「美術高校なんだから誰も絵のことは茶化さないさ」と楽観的な先生のアドバイスは的外れで、光子は教室でも廊下でも、どこにいても好奇の目で見られるようになります。

妹の裸

絵が飾られたことを聞きつけた家族や親戚が学校に集まり、絵を囲んで記念写真を撮らされた光子は、絵を挟んで隣に立つ無表情な妹に心の中で復讐を誓います。

「妹よ、お前のせいで皆が私のハダカを知ってしまった。私の受けた屈辱、その体に教えてやらあ」

その日の夜、光子は妹の部屋を訪ねると、開口一番に「服を脱ぎなさい」と命じました。

戸惑う妹は光子の言う通り全ての服を脱ぎ、ベッドに寝そべって光子のデッサンに付き合うことに。

「お姉ちゃん、なんで…」

「お前のハダカを描き、金賞を貰う」

恨みを込めた視線を送り、誇張して描くことを宣言する光子に対し、妹は怒りもせずに微笑みます。

「お姉ちゃん…と話すの…久しぶり…」

光子は何も答えません。ただし、疑問に感じていることを何気なく質問します。

「アンタ、どうやって私のハダカ描いたの」

「そうぞ…想像…想像で…」

「…キモ」

光子の一言で、部屋はシンと静かになりました。

就職を選んだ理由

沈黙を破ったのは妹でした。

「お姉ちゃん、なんで就職したの?」

光子は、自分の絵の才能では進学しても将来性がないことを、妹の才能によって痛感させられていました。その自覚がない妹は、3年生の中で1番絵が上手いのに…と納得ができない様子です。

デッサンを描いていた鉛筆の芯が折れ、光子は勢いよく妹に現実を突き付けます。

「1年生のアンタより下手なの…!」

光子の発言を否定するように「そんなことない…」と呟く妹は弱々しく、視線を逸らしてそれ以上は何も言うことができませんでした。

劣等感

光子は回想します。高校生になるまで、妹がかわいいと思っていたことを。

幼い頃からいつも自分の後ろを追いかけて、何でも真似したがった妹。その度に、先に始めていた自分が妹よりも優位に立つことができて、光子は心地よさを感じていました。

しかし、妹が光子を追いかけて同じ美術学校に通うようになり、仲がよかった姉妹の関係は崩れます。

デッサンも油絵も未経験だった妹は、特待生として入学を果たし、絵の才能が開花

それ以来、光子は妹と話さないようになりました。

正しい裸の描き方

ある日、学校の玄関に飾られた絵を眺めていると、美術の先生に声をかけられた光子。

先生は光子の妹が、いつもは授業態度が悪いのにもかかわらず、この絵だけは丁寧に時間をかけて描いていたことを明かします。

「変態なんでしょ」と悪態をつく光子に対し、先生の返答は意外なものでした。

「自分の目標を描けって授業で、自分の姉を書いたんだぜ。でっかく期待されたもんだな」

光子は目が覚めたように気付かされます。

妹はいつも自分のことを見続けていたから、自分の裸が描けたのだと。一方で、光子は妹のことを見ないようにしていたから、妹の裸を描けないのだと気付きます。

しかし、光子は妹の姉である以上、『正しい裸の描き方』を教えなければなりません

それから月日は流れ、美術室でキャンバスに真剣に向き合う光子は、『渾身の裸体』を作品として完成させ、卒業式を迎えました。

妹の姉だから

卒業式の日、学校の玄関に飾られていた妹の絵は撤去され、新しい絵に入れ替わりました。

その絵の前に、光子と妹の姿があります。

大きな絵に描かれていたのは、堂々とした姿で椅子に腰掛ける裸体の光子です。絵を描いたのはもちろん、光子本人でした。

妹の絵と異なり、胸の大きさや表情などが忠実で、モデルの『生き様』が絵を通して感じられます。

「私のハダカとは、こう描くのだ。次はもっと私をよく見て描きなさい」

「はい!」

憧れの姉からアドバイスを受けた妹は、嬉しそうに返事をしました。

そして、東京に就職した光子が一人暮らしを始めて1年が経った頃、妹は光子を追って上京。二人暮らしを始めることになります。

「だって2人のほうが家賃安いよ」

どこまでも追ってくる妹に呆れながら、光子は「結局、私は妹の姉だから離れられないのだ…」と悟るのでした。

『妹の姉』の考察・解説

『妹の姉』は、藤本タツキ先生の代表作の1つ『ルックバック』のベースになった作品です。本作のあとがきでは、「『ルックバック』の下敷きにある作品です」とのコメントが記載されています。

妹の性格や髪型が、『ルックバック』に登場する京本と似ているのは、彼女が元になっているからでしょう。

また、作品では姉が妹に対して、『背中で語る』というニュアンスの描写が随所に描かれていて、憧れの人物の背中を追いかけたくなる妹の気持ちも伝わってくる内容です。

©︎藤本タツキ『藤本タツキ短編集22-26/妹の姉』より

特に、上記のコマは『ルックバック』でもたびたび描かれていた、主人公が漫画を描くシーンとよく似ています。

ほかにも、光子が妹の手を取って走っている後ろ姿のコマや、光子の背中に抱きついて「同じ高校に通いたい」と話す妹が描かれているコマがありました。

藤本タツキ先生は、登場人物の『背中』の描写に含みを持たせることが多いようです。

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漫画『藤本タツキ短編集22-26』は代表作の原点が詰まっている作品

漫画『藤本タツキ短編集22-26』に収録されている、短編漫画4作品のネタバレや解説・考察をまとめました。

漫画好きを唸らせた『ルックバック』のルーツや、人気漫画『チェンソーマン』に登場するキャラクターの元になっているであろう人物が描かれているなど、藤本タツキ先生の『原点』が詰まっていて、ファンは絶対に見逃せない作品です

また、同作には前編『藤本タツキ短編集17-21』も発表されています。ぜひ、どちらもあわせて電子書籍サービスを利用して読んでみてはいかがでしょうか。

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